立ち上げフェーズ:「スケーラビリティスイッチとは?」
こんにちは、経営コンサルタントの入野です。
本日は「立ち上げフェーズ」について解説します。
最初から完璧な製品・サービスを発売しようとするが、
コストや時間をかけた割には失敗してしまう、というよくあるケース。
最初から一発で完璧なものを考えて作りだすのは
なかなかあり得ないのが現実です。
「最終形」ではなく「プロトタイプ」を作ることがポイントです。
「プロトタイプ」とは、製品の試作品やサービスのテスト運用のこと。
より広い意味では、マーケティングや決済回収などの
製品・サービス以外のビジネスの仕組み自体も含まれる場合もあります。
プロトタイプは
机上の空論のコンセプトのレベルでは把握しにくい具体的な問題点を
早めに洗い出すのが目的です。
立ち上げフェーズでは、とにかく早くプロトタイプを作り、
大きな投資が必要な量産化の前や、
ブランドが傷つく恐れのある正式リリースの前に、
とにかく早く小さく失敗することがポイントです。
よくあるケースが「最初の6か月の収入はゼロ」という計画。
とにかく早く最初の顧客をつかみ
1円でもいいので売上を上げる努力を立ち上げフェーズではするべきです。
なぜ最初の顧客を重視するかというと、
ベンチャーは最初の客に最も苦労するからです。
どんなに良い製品・サービスであっても、
全く実績がなければ、顧客は簡単には買ってくれないからです。
また、なぜ1円かというと、
タダと1円の間には大きな意味の違いがあるからです。
無料お試しのマーケティング調査の段階で非常に良い反応があったとしても、
実際に発売してみると、
わざわざお金を払って顧客が買うとはかぎりません。
たとえ1円であっても顧客がお金を出して買うということは
市場ニーズがあるということなので、
事業成立の可能性があるということを少なからず意味するのです。
また、銀行や投資家からの1円ではなく、
客からの1円であることもポイントです。
「客からの1円」は「投融資からの1円」と価値が全く違うからです。
時価総額への金額インパクトを考えると、
「投融資からの1円」はただの1円ですが、
「客からの1円」は2.1円以上の価値はあります。
※企業価値≒EBITDA×7倍、粗利30%の前提
とにかく早く「最初の客からの1円」を上げることが
立ち上げフェーズでは重要です。
「立ち上げ当初は大手コンビニチャネルで販売し、」
「立ち上げ当初は20代OL層の顧客セグメントへ訴求し・・・」
「サイト立ち上げにはPHPスキルとデザイン力のある人材を採用し・・・」
というケース。
具体的な個社名・個人名が特定できない記述はNG。
立ち上げフェーズのベンチャーは顧客や協業企業、欲しい人材に
相手にされないケースが多いからです。
固有名詞まで特定できていないということは
立ち上げの戦術としてまだ未熟だということです。
立ち上げフェーズの記述としてベターなのは、例えば、
「前職から15年のお付き合いのある地元スーパー武田の田中購買部長に
期間限定で埼玉南部エリアの5店舗の棚に置かせていただく稟議を
お願いし・・・」
「出身大学のバスケ部OB会の輩50人に頼んで買ってもらい・・・」
「プロジェクトを2年一緒にやったことのある釜本さんを採用し・・・」
最初からベストな顧客、ベストなパートナーを
捕まえられなくてもかまわないので、
具体性と身の丈にあった実現可能性が必要です。
立ち上げフェーズとは、最終目的地にいたる最短の直線経路を
必ずしも通れるわけではありません。
紆余曲折を交えた遠回りな道でも構いませんが
事業計画上は最も直近のことを語るセクションであるので、
固有名詞が必要なのです。
事業計画でよく作成する月次の財務3表:PL、BS、CF。
しかし、実際に役に立つのは
月次PLだけです。
月次のBSは
大規模な資産を投資するような製造ベンチャーでない限りは不要です。
月次のCFでは物足りません。
なぜかというと、例えば、
給料支払い300万円は25日、売掛金の入金700万円は月末30日のケース。
月次CFで見ると、当月は400万円のプラスに見えますが、
25日時点では給料を払えない場合もあります。
月次よりも日次で資金繰りを把握しなければならないのです。
ベンチャー企業の立ち上げフェーズの資金繰りは
経営者の予想よりもはるかに不安定なので、
資金繰り日計表で管理するのがベターです。
立ち上げフェーズでは、
会社の体裁を整えるのにいろいろ悩むことがあります。
- 会社の形態は株式会社がいいのか、LLPがいいのか?
- 資本金はいくらにすれば、会社として信用があるのか?
- 社会保険事務所には何を届け出する必要があるのか?
- 税務署には何を届け出する必要があるのか?
- オフィスの住所は何区が見栄えがいいのか?
- 会計ソフトは弥生会計がいいのか、勘定奉行がいいのか?
- 経理の仕訳はどのように入力すればいいのか
実はこういう会社の体裁はどーでもいいんです。
立ち上げフェーズの貴重な時間を
このような些細なことを検討するために
時間を割くべきではありません。
ベンチャーは株式会社にしようがLLPにしようが、
資本金1000万円にしようが、5000万円にしようが、
どーせ信用はないのです。
ベンチャーが会社として信用を作る手段は
顧客からの売上と顧客を満足させた実績だけです。
まず必要なのは会社の体裁ではなく顧客。
上級者は会社の体裁にはあまりこだわらず、
顧客への営業とサービスに80%以上の時間を使います。
例えば、
- 会社の設立登記の前に顧客に売り込みを始める
- オフィスは間借り/自宅/レンタルオフィス
- 経理仕訳はあえて半年ため込んでまとめてバッチ処理やアウトソース
事業は小さく小さく産むほうがいいのですが、
小さく産める事業は大きく成長しにくいということがあります
Start SmallとBig Business の間には大きなジレンマがあるのです。
しかし、Start SmallとBig Businessを両立して解決する条件があります。
スケーラビリティ(事業の拡張性)です。
上級者はまず事業選択の段階で
小さく始められる割には大きく成長する可能性のある事業を選びます。
そして、事業を始めた後は
いかにしてスケーラビリティを発揮するかに知恵を絞ります。
どのような事業も立ち上げフェーズでは
売上高や利益の増え方は地道な足し算です。
売上高=1顧客+1顧客+1顧客・・・のコツコツとした積み上げです。
しかし、ある時を境に
かけ算のように売上高や利益が増えるポイントがあります。
例えば、販売代理店制度やフランチャイズ制度を構築すれば、
売上高=1顧客+1顧客+1顧客
+3販売代理店×3顧客
+6フランチャイズ店×10顧客・・・
このように、事業を一気に急拡張するキッカケや仕掛けのことを
「スケーラビリティスイッチ」と呼んでいます。
上級者はSmall Startを心掛けながらも
Big businessにつながるスケーラビリティスイッチをよく考えています。
最近のVC各社は、
環境技術分野や医療分野への投資が集中し、
IT企業への投資は冷え込んでいます。
「IT分野でのイノベーションはほぼ終わったから」
「IT企業の売上は数百億円規模のビッグビジネスになっていないから」
というのが理由のようです。
しかし、スケーラビリティを考えた場合、IT分野はいまだに
小さく始めて顧客数を爆発的に増やせる分野であることは確かです。
日本市場よりも世界市場のほうが市場も早く大きく成長する分野なので、
経営陣や技術者の国際化が必須ですが。。
来月に日経BPやBizOceanに
事業計画についてコラムが掲載されます。
また見ておいていただければ幸いです。
本日は以上です。