リスク管理: 「PESTなんて怖くない」
こんにちは、経営コンサルタントの入野です。
事業計画におけるリスク管理のコツをまとめ、
リスク管理のパワーポイントのサンプルをダウンロード提供させていただきます。
PESTとは外部環境を分析するときによく使うフレームワークです。
Politics: | 政権交代、法律、規制、許認可 |
Economics: | 景気動向、金利動向、為替レート、雇用動向 |
Society: | 文化、人口動態、ブーム、世論 |
Technology: | 新技術、発明、インフラ |
リスク管理のセクションをこのPESTフレームワークで記述している事業計画書をよく見ます。
しかし、問題があります。
- ベンチャー・中小企業にとっては外部環境としてマクロ的すぎるので、リスクとして認識しても具体的な対策を立てることができない
- 「事業が失敗するのは外部環境のせいです。私のせいではありません。」と経営者が言い訳しているように聞こえる。
PESTを書いてはダメということではありません。
業界の概要を投資家にレクチャーしておくという目的や、経営者としての大局感を示すという目的のためにはPESTを書くのは構いません。
しかし、ベンチャー企業のリスク管理としてはPESTだけでは全く不十分です。
「お飾りでリスク管理のセクションを書いてるなあ~」というのがバレます。
マクロ的なリスクだけでなくミクロ的なリスク。外部環境リスクだけでなく内部環境リスク。
ベンチャー企業でも対策をとることができる規模のリスクを具体的に記述しましょう。
- 資金繰りのリスク
- 取引先の倒産リスク
- 創業メンバー・スタッフの離脱
- 大手企業参入のリスク
- 十分な融資や投資が得られないリスク
などをツラツラと並べている割には、「販売不振」をリスクとして挙げていない事業計画書をよく見ます。
中小企業庁の統計では、日本企業が倒産する原因は以下のとおりです。
注目すべきは「販売不振」。
ダントツの65%。倒産原因としては圧倒的に多いのです。
私の経験でも、事業計画で最もハズれる確率が高いのが売上予測。
したがって、リスク管理のセクションに「販売不振のリスク」について何も書かれていないのはマズイです。
「経営者としての経験が浅く、現実を分かっていない」と経験のある投資家には判断されてしまうので注意が必要です。
事業リスク管理のセクションには、「普通なら当然やること」をわざわざ記述する必要はないのです。
売上を上げるために当然やるべき施策(メールマガジンなど)は「マーケティング・営業戦略施策」のセクションに記述すればいいのです。
品質リスクを下げるに当然やるべき施策(検査要員の配置など)は「オペレーション計画(品質管理計画)」のセクションに記述すればいいのです。
事業リスク管理のセクションにわざわざ書く意味があるのは
- リスクが発生しなければ、ムダになるような施策
- コストや工数、時間がある程度かかる施策
例えば
- 本当にやりたいシゴトだけではなく、
日銭を稼げるアルバイトプロジェクトも並行して走らせる - 得意先A社からの収入で十分であっても、
A社の業績不振に備えて取引先Bを開拓しておく - 売掛金の回収コストがかかるが、口座自動引き落としにする
過度にリスクを嫌って、チャンスを逃してしまうベンチャー企業があります。
リスクの対策には「回避」、「低減」ももちろんありますが、「受容」というのも対策の一つです。
よくあるケースは法律・規制リスク。
法規制が明確ではないので、規制リスクを嫌って大手企業が参入しにくい分野があります。
このような分野は規制リスクが参入障壁となるので、ベンチャー企業としてはスジのいいビジネスチャンスなのです。
ポイントは
- 他人に迷惑をかけたり、他人を食い物にするビジネスは絶対にやらないのは大前提
倫理的な問題ももちろんですが、そんなビジネスは長期的には儲かりません。 - 官庁への問い合わせタスクを怠らない
まず弁護士に相談する方が多いですが、弁護士は法律的論点の抽出はできますが最終判断はできません。規制当局に電話で聞くほうがてっとり早いのです。
成功しつつあるベンチャーには怪しい紳士も寄ってきます。
そのような輩と取引関係や資本関係があると、上場のノックアウトファクターになってしまいます。
経験のある経営者は
- 人を見抜く目を養うだけの人生経験を持っている
- 怪しい人物の経歴を確認できる広い人脈を持っている
日本企業が倒産する原因の統計グラフをもう一度みてほしいのですが。
注目すべきは「既往のしわよせ」。
7%で2番目に多い倒産原因です。
この実態は「ゆでガエル」。
カエルを冷水からゆっくり熱していくと、命の危険を知覚できずに最後までジャンプせずにゆで上がってしまうという話です。
業績悪化が危機的レベルにも関わらず、具体的な数値を理解していないので、倒産してしまうケースです。
経験のある経営者は、
- 具体的な経営指標を把握している
- リスクトリガー(ジャンプするキッカケとなる閾値)を定義する
- 速やかに対策を実行する
例えば、
「この事業が失敗するのってどんな場合ですか?」
人生をかけて全力で事業をがんばっている社長さんに向かって、こんな失礼な質問をするのは心苦しいのですが、このような質問をあえてさせていただくことがあります。
経験のある経営者の答えは
「商品Aの単価が500円より低くなって、月に2万個以上売れなくなるとヤバイね。みんなでサービスBのバイトで稼がなきゃ。」
左脳に訴える経営指標と「これはヤバイ!」と右脳に残る危機感、なりふり構わずリカバリー策を実行する決意を持っているのです。
本日は以上です。
入野