資金調達: VCがカネを出す条件
こんにちは、経営コンサルタントの入野です。
VC投資だけでなく、制度融資や助成金も含めて、
資金調達の考え方についての要点をまとめておきます。
どれぐらいの確率で資金調達できるのかという観点で、資金調達ソースの優先順位をつけていない企業がたまにありますが、あまりよくありません。
資金調達タスクでは、申請書や事業計画書の作成などに時間や工数、コストがかかる上、特に金融機関からの資金調達では「相手にされないレベル」というのが存在するからです。
ベンチャーの資金調達の方法はいろいろありますが、
一般的に確率が高い順に挙げるとすると、
- ハローワークの受給資格者創業支援助成金
- 親戚・知人からの出資
- 厚労省の中小企業基盤人材確保助成金
- 国民金融公庫の新創業融資 or 新企業育成貸付
- エンジェルからの出資・借入:種類株、少人数私募債なども
- 中小企業基盤機構の事業化助成金
- 経産省の新連携助成金
- ベンチャーキャピタル(VC)からの出資
- 信用金庫、地銀からの借入
- 都銀からの借入
可能性の低い資金調達先にいくらアプローチしても時間と工数、コストを浪費するだけなので、優先順位をつけましょう。
資金調達を考える際にまず最初に考えるべきは、
「このままの収入・支出が続くといつキャッシュがゼロになるか」。
ベンチャーは起業後すぐキャッシュインが十分に発生するとは限らず、
資本金を食いつぶす期間があるのケースが多いのですが、
「いつキャッシュがゼロになりますか?」と聞いても
即答できる経営者は意外と少ないのです。
Burn Time(≒いつ現預金がゼロになるか?)を使い、
「燃え尽きるタイムリミット」を把握します。
Burn Time = 現預金残高 ÷ 月あたりのマイナスキャッシュフロー
を計算しておくことが重要です。
予想PL・BSをExcelで計算して計算結果だけを貼り付けている事業計画書をよく見ますが、あまりよくありません。
金融のプロ中のプロであろうと、正直なところ、計算結果だけを見てもよく理解できないからです。
Excelの計算結果だけを貼り付けている場合、読み手が勝手に数字を解釈してしまい、多くの場合はポジティブな解釈よりもどちらかというとネガティブな解釈しかされません。
以下を明記してあげましょう。
- 数字の前提となっている事業のマイルストーン達成度
- 数字の根拠となっている仮説
- 計算結果だけでなく計算ロジック
- 計算結果の解釈
「8000万円お願いします」と頼んでいるのに、
「8000万円の内訳は?」と聞かれてもハッキリと答えられないケース。
以下の項目はを明確に答えられるようにしましょう。
- 資金使途ごとの内訳金額
- 最大の費用項目:
結局、何に最もコストがかかる案件なのか
- カットできる項目:
全額は投融資できない場合、投資抑制・経費カットするとすればどの部分か - のりしろ:
コスト見積の超過リスクや心の余裕を考慮して余分に調達しておきたい金額はいくらか?
余裕を持って資金調達をするのは健全なことなので、聞かれれば正直に胸を張って答えられるように。
「8000万円の内訳は?」と聞かれたら、答えはこんな感じです。
『4000万は設備投資。
2000万は運転資金。
2000万は予測不能な部分の安全バッファーです。
設備投資で今回大きいのは店舗取得・内装工事に3000万。
運転資金で大きいのは売掛金で2ケ月分1800万を想定しています。』
創業や中小企業支援のための助成金は数多くあります
しかし、助成金の問題は:
- キャッシュは先出し:
設備投資や経費発生の時点では会社がキャッシュ支出を一時的に負担して先出ししなければならない。
- とにかく時間がかかる:
助成金が入金されるのは申請から最低でも3-4ヶ月。
6ヶ月以上の助成金も。 - 手間もかかる:
書類作成や面談出席に工数がかかり、
キャッシュインフローにつながりやすい営業タスクや技術開発タスクなどの本来やるべきタスクに手が回らないリスクがあります。補助金申請タスクを担当する者が営業タスクや技術開発タスクを担当していなくて、本業に支障が出ないのが理想ですが、多くのベンチャーの場合、トップ営業マンの社長しか補助金申請タスクを担当できないのが現実でしょう。
したがって、助成金は1-3ヶ月などの短期の資金繰りには向かないのです。
資金切れ寸前の土壇場で、VCやエンジェルからのエクイティ投資を探る企業がありますが、あまり得策ではありません。
VCは運転資金が不足しているような企業はそもそも相手しないので、時間をムダにします。
エンジェルから救済してもらったとしても、株式の発行価格や持株比率などで不利な条件を呑まされることも多い。
本来、エクイティファイナンスは中長期的な業務提携や会社の経営権の文脈で考えるべきであって、1-2ヶ月レベルの一時的な資金繰りとは分けて考えるべきです。
さもないと、一時的なピンチのために会社の中長期的な将来に禍根を残します。
世の中の金利がどれくらいの利率なのかについて感覚が弱く、
過度に借金を怖がってビジネスチャンスを逃してしまったり、
過剰な借金やエクイティ投資を受けてしまう経営者がいます。
貸出利率やエクイティ投資の利率を各種の金融商品と大雑把に比較すると:
% | |
---|---|
10年物日本国債 | 1.045% |
30年物日本国債 | 1.986% |
日本公庫の新規創業融資 | 4%前後 |
住宅ローン(5年固定~20年固定) | 1.9~4.5% |
上場企業の一般株主の期待収益率(国内株式) | 6.5~9.0% |
中小企業向けビジネスローン | 13~18% |
消費者金融(グレーゾーン撤廃後) | 15~18% |
VCファンドが目標にするIRR | 20~25% |
VC投資を融資(無担保貸出利率)に換算すると | 50~60% |
中小企業向けビジネスローン ※節税効果を考慮すると、 1-実効税率30%ならば | 13~18% ↓ 7.8~12% |
- 各種の金融商品と比べると、
日本公庫の貸出利率がいかにおトクか
- 住宅ローンとビジネスローンを比べると、
中小企業よりサラリーマンのほうが信用力が高い
- VCファンドの利率の高さを考えると、
VCのベンチャーに期待するハードルがいかに高いか
- 節税効果(≒支払利息を損金処理できる)を考慮すると、
エクイティ投資を受けるより借金したほうが企業全体の資本コスト(≒WACC)は安いこともある
などの金利感覚は持っておく必要があります。
例えば、日系のベンチャーキャピタルが投資する最低条件は3つ:
- 売上の伸びがこのペースで伸びるとIPOレベルに届くと投資委員会で合理的に説明できること
例えば、
「最近6四半期の売上高のグラフを直線で伸ばすとIPOレベルに売上高がとどく」というようなロジック。
直線(≒売上高の伸び率が一定)であることが大切です。
曲線(≒売上高の伸び率が伸び続けている)はロジックに無理があるのでNG
- 計画している事業規模がIPOレベルを超えていること
実際には各市場の上場基準を満たし、経常2億でも上場する企業はあります。
しかし、計画段階では経常5億以上(≒証券会社が引受を承諾したくなるレベル)を目標に。しかも、計画は下振れするので、実際にはそれ以上の高いハードルを計画しておかねば投資委員会のテーブルにも載らないかもしれません。
- ファンドの期限以内でIPOを目指していること
ファンドの運用期限は通常は5年。延長しても7年。
計画は遅れるので2年サバを読んで3~5年でIPOをすると言い切るべきです。
これらの他に、VCの行動原理として重要な事項は
- VCの既存投資先企業とのシナジーが高い企業は
投資ポートフォリオに入れやすい
- 誰に紹介された案件かが投資判断に少なからず影響する
- 株価算定に絶対的な正解はない
などを経験のある経営者はよく理解していて、
- VCの既存投資先の企業をよく調査しておく
- 業界に詳しいVCの担当者がコンタクトしてくるように
プレスリリースを工夫する
- VCとのコネクションのあるコンサルタントなどに紹介を依頼する
- たとえ経営者本人に金融知識がなくても、
Valuationの交渉の時に全くひるまない
入出金サイトのバランスが悪くて黒字倒産する企業は確かにありますが、資金繰だけに失敗して倒産する企業は実際には少ないのが現実です。ビジネスモデル≒儲けの仕組さえしっかりしていれば、なんだかんだ不思議と資金調達には成功します。
キャッシュ切れで倒産するベンチャー企業の多くは「資金繰りの失敗」ではなく、
- 回収する仕組が弱い
- 良質な顧客層を集客する仕組が弱い
- 小さくプロトタイプを産むのが下手
などの「儲かる仕組の構築に失敗」した企業です。
ベンチャーを経営していると「来月末の資金繰りがヤバイ!」という状況は一度や二度は必ず経験します。しかし、そんな時でも経験のある経営者は資金繰りに奔走してムダな時間を使うよりも、儲けの仕組の構築に奔走します。
本日は以上です。
入野